燃料デブリ取出しを見据えた炉内状況把握

プシェニチニコフ・アントン博士

Interviewee

プシェニチニコフ・アントンDr. Anton PSHENICHNIKOV

研究の内容と目的

燃料デブリとは、原子炉内の燃料が過熱し、構造物や燃料が溶けて冷え固まった物質です。福島第一原子力発電所(以下1F)事故後の内部調査により、燃料デブリが炉内に様々な形状で存在することが分かっていますが、燃料デブリの形成メカニズムはまだ十分に解明されていません。廃炉を安全に進めるためには、炉内の状況を正確かつ適切に把握していくことが重要なテーマです。 そこで、私たちの研究グループでは、炉心の溶融・溶融物の移行・圧力容器の破損という一連の現象を検証するための世界初の試験装置「制御棒ブレード破損試験装置」(Large-scale Equipment for Investigation of Severe Accidents in Nuclear reactors、以下LEISAN)を開発し、燃料デブリの形成メカニズムを解明する研究を行っています。

LEISAN(制御棒ブレード破損試験装置)
制御棒ブレード破損試験体を用いた溶融・移行試験

1Fの燃料デブリの特徴

1Fの内部調査では、構造物のステンレス鋼(SS)がボロン((炭化ホウ素(B4C))と反応したと推測される非常に硬いプレート状の化合物、ウラン・ジルコニウム酸化物とされる小石状の堆積物、溶け落ちた構造物の一部が確認されています。 LEISANによる制御棒ブレード破損試験体を用いた試験結果により、事故発生時に原子炉内で起きた炉心溶融を限定的に再現し、類似性の高い燃料デブリを生成することに成功しました。試験で得られた燃料デブリを詳細に解析・評価することで、溶融物がいかに移動したのか、圧力容器がどのように破損したのか等、1Fの燃料デブリの形成メカニズムを解明できると考えています。

LEISANによる試験生成物

LEISANで水素発生のメカニズムやボロンの移行挙動を調査

燃料集合体を形成するチャンネルボックスは、ジルコニウム(Zr)を主成分とする合金が使用されていますが、1F事故時においては、高温となったジルコニウムが酸化して水蒸気と反応し、大量の水素ガスが原子炉建屋に漏れ出して水素爆発を引き起こしたと考えられています。そこで、ジルコニウムがどのように状態変化して酸化したのか、水素ガスがどのタイミングで大量に発生したのかを検証するために、LEISANを用いた試験において、動画撮影、昇温速度の測定、分析装置により様々な角度からデータを収集しています。
また、原子炉の制御材として使用されているボロンは、クロム(Cr)やジルコニウムと凝固し炉内の下部に落ちるだけでなく、一部は酸化して蒸発し、セシウム(Cs)等の核分裂生成物の化学反応に大きく影響したと見られていますので、ボロンの移行挙動についても分析していくことが必要です。廃炉の安全対策において、高線量の放射性セシウム化合物の分布状況や付着状態を把握することが不可欠ですので、今後はLEISANによって得られた測定データの解析を進めながら、燃料デブリ形成過程や状態把握の精度を高めていくことが課題となります。

この技術がどう活かされるのか

廃炉を円滑に進め、原子力施設の安全性向上へ繋げる

炉内の状況把握は、燃料デブリの取り出しや廃炉を安全に推進していくための重要な研究テーマです。もし万が一、原子力事故が再び発生し、ボロンやセシウム等の移行挙動解析が必要となった場合は、今回の検証結果が“モデリング”として課題解決に向けて役立つことになりますし、基礎研究として今後の原子力施設の安全性向上へ繋がっていくことになると考えています。

研究者 プシェニチニコフ・アントン(researchmap)
参考文献 Pshenichnikov, A. et al., Features of a Control Blade Degradation Observed In Situ during Severe Accidents in Boiling Water Reactors,
Journal of Nuclear Science and Technology, vol.56, issue 5, 2019, p.440-453.