液相分析手法を用いた環境試料中の微量放射性核種濃度分析手法の開発

松枝誠

Interviewee

松枝誠Makoto Matsueda

研究の内容と目的

廃炉環境国際共同研究センターでは、福島第一原子力発電所(以下1F)から放出された放射性核種の環境動態を調査しています。これまでの取組みとしてセシウム-137やストロンチウム-90といった約30年の半減期を持つ核種をターゲットとして環境動態の把握や分析手法の開発を行ってきました。今回、ターゲットにしたのが、一度環境中に放出されるとほぼ減ることがない半減期21万年のテクネチウム-99(99Tc)です。99Tcは環境中での移動度が高く、環境中に広く分布しやすい上、海藻等の水産物へ蓄積するため1F周辺の幅広い範囲の環境をモニタリングする必要があります。しかし、現在の日本には99Tcの公定法(文科省で定められている分析法)がなく、独自の技術が必要となります。さらに99Tcは元々、自然界になかった人工放射性核種であり、バックグラウンドが非常に低く、高感度な分析手法が求められます。そのため、長期モニタリングを想定した高感度かつ簡便な分析手法を開発しそれを用いた環境試料の分析とモデリングの構築を目的としています。

放射性核種を分析する手法

放射性核種を分析する手法は、放射能分析または質量分析の2つに大きく分けられます。放射能分析では、99Tcが放出するβ線を測定しますが、半減期の長い99Tcは単位重量あたりの放射能が低いため分析には大量の試料を必要とします。また,他のβ線を放出する核種が混ざっていると各ピークが重なり定量できないため、それらの核種を全て分離するといった煩雑な操作も必要です。そのため、少量の試料を高感度で分析できる高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)等の質量分析法が有利と言えますが、ルテニウム-99(99Ru)や98Mo1H(モリブデン-98に水素が付加したもの)などの同重体のピークが重複するため、これらを分離する必要がありました。

高周波誘導結合プラズマ-質量分析計(ICP-QMS)
オンライン固相抽出ICP-MSシステム

オンライン固相抽出ICP-MSシステム

そこで開発したのが、全自動分析システム「オンライン固相抽出ICP-MSシステム」です。このシステムでは、まず、99Tcのみを吸着する樹脂を用いて、99Ruなどの干渉する核種を除去します。その後、99Tcを溶出させてICP-MSへと導入しますが、そのままでは98Mo1Hが装置内で発生し、99Tcと干渉してしまいます。そこで、ICP-MSに内蔵されているダイナミックリアクションセル(DRC)に酸素ガスを流すことで、98Mo1Hを精密に除去する技術を独自に開発しました。この技術開発により、99Tcを正確に検出できるようになり、分析時間は15分以内に短縮することが出来ました。実際の環境サンプル(河川水や海水など)に99Tcをスパイクして分析した所、添加した値と同等の値が得られました。

オンライン固相抽出ICP-MSシステムフロー図

この技術がどう活かされるのか

「オンライン固相抽出ICP-MSシステム」は迅速かつ全自動なのは良い点ですが、環境中のバックグラウンドを測定するにはまだ感度不足です。これまでの報告では、環境中の99Tcを分析するために、海水1試料あたり200Lを必要としましたが、数リットル程度の試料量で測定可能な高感度な分析システムを構築し、1Fの事故後の99Tcの動態研究へ活かしていきます。さらに、99Tcの公定法として定められるような手法の構築を目指していきたいと考えています。

研究者 松枝 誠(researchmap)