森林域における放射性セシウム分布及び樹木の放射性セシウム濃度の予測

Interviewee

佐久間一幸Kazuyuki Sakuma

博士(工学)

研究の内容と目的

従来までの研究によって、東京電力福島第一原子力発電所(以下1F)の事故により降下した森林域における放射性セシウム(以下:セシウム)の年間流出量は初期沈着量の1%以下、つまり森林内にセシウムが長期間留まることが判明されています。しかし福島県内の森林内のセシウムの動きはまだ平衡状態に至っておらず、どこに分布しているのか、その全体像の把握と今後どう動いていくのかを予測することが重要です。そのため、1Fの事故後のプルームが通過した福島県の川俣町と川内村の山地森林域を調査地に定め、産業利用されるスギ林とコナラ林を対象に調査を実施し、研究、解明を進めています。

森林内の観測方法

プルームが通過した森林内では、セシウムが枝葉や樹皮に付着し、雨や落葉(リターフォール)で地表部や土壌層へ移動し、根からの吸収などによって分布が変化していくことが知られています。1Fの事故は3月に発生したため、既に落葉していたコナラ林(落葉広葉樹林)とスギ林(常緑針葉樹林)では初期沈着分布量が異なることに注意し、セシウムが吸着しやすい林床を基準に置くことなども前提にして、森林内の各所に定点観測をするプロットを作って調べています。
このような手法を用いて、樹冠から林床へのセシウムの流入量、林床から林外へのセシウムの流出量、樹木、土壌層のセシウム分布の調査を行っています。その際、スギ、コナラのそれぞれセシウムの濃度や移行量を調べ上げ、セシウム分布の経年変化を予測しています。

放射性Csの移動

観測・採取方法図

セシウムの流出・流入量、森林内の分布や濃度の動態

観測の結果、樹木のセシウム濃度の経年変化は流出土壌を除き、いずれも低下傾向にあり、林床を基準としたセシウムの流出量は森林の樹種に関わらず、ほぼ一定か減少となりました。流入量は大部分がリターフォールによる流入でコナラ林では2016年以降はほぼ一定で、スギ林では減少傾向にあると判明しています。
森林内の放射性セシウム分布は樹種、樹高、幹の直径を計測し、木を伐倒して根、リター(落葉や落枝)、土壌の採取をして地上部(樹木)と地下部(リターと土壌)に含まれるセシウム沈着量を算出することで、森林内の分布の経年変化を予測します。調査を進めた所、スギ林とコナラ林どちらも沈着量の9割以上がリターと土壌にあり、スギは針葉と枝、コナラは辺材と樹皮の沈着量が減少していました。
樹木から除去されるセシウム量=樹木のセシウム減少量となるはずですが、スギの場合、セシウム減少量が樹木のセシウム除去量よりも少なく、セシウムがどこからか地上部の樹木へ供給されていると考えられます。従って、樹木の根から移動(転流)していることや、地下部から地上部へ移動したセシウムは、リターフォールなどにより樹木から除去されていくため、今後、樹木のセシウム量は減少していくと見込まれます。
コナラの場合はスギとは逆で、セシウム除去量が樹木のセシウム減少量よりも少なく、セシウム除去プロセス以外で地上部の樹木から除去されていると推測されます。つまり、樹木の地上部から、地下部へのセシウム移動や樹木の地上部から、根へ移動(転流)するのではないかとの見積もることができます。
今後さらに、農林水産物へ取り込まれやすい化学形態である溶存態セシウムの生成や移行が重要な課題となることから、森林内でどのような条件の時にどのようなプロセスで森林リターから溶存態セシウムが溶出するかについて、現地試験や室内実験で調べています。

この技術がどう活かされるのか

森林内の平衡状態の予測

本研究の結果に基づき、福島県の森林がいつ頃までに平衡状態になるか、将来的な予測を行うことができると期待されます。福島県の帰還困難区域や解除された地域の方々が懸念しているのは、除染されていない森林が及ぼすキノコや山菜を含む林産物、川魚等の水産物への影響です。初期沈着量が多いスポットはまだセシウムの濃度が高く、どういう経路で林産物や水産物へセシウムが取り込まれているのか、特に、農林水産物へ取り込まれやすい化学形態である溶存態セシウムの森林内での生成や移行について、そのメカニズムがはっきりと解明していませんので、明確にしていく必要性があります。
そして帰還困難区域の解除、避難指示が解除された区域で居住する住民の方々へ向けて、科学的なデータを提供することをモチベーションに、信頼性の高い観測を継続していきます。

研究者 佐久間 一幸(researchmap)
参考文献 Niizato, T., Abe, H., Mitachi, K., Sasaki, Y., Ishii, Y., Watanabe, T., 2016. Input and output
budgets of radiocesium concerning the forest floor in the mountain forest of Fukushima released from the TEPCO's Fukushima Dai-ichi nuclear power plant accident. J. Environ. Radioact. 161, 11–21. http://dx.doi.org/10.1016/j.jenvrad.2016.04.017.
Sakuma, K., Yoshimura, K., Nakanishi, T., 2021. Leaching characteristics of 137Cs for forest floor affected by the Fukushima nuclear accident: A litterbag experiment. Chemosphere. 264, 128480. https://doi.org/10.1016/j.chemosphere.2020.128480.