原子力防災ツールの開発(陸上編)

佐々木美雪

Interviewee

佐々木美雪Miyuki Sasaki

研究の内容と目的

日本における放射線測定は、東京電力福島第一原子力発電所(以下1F)の事故後、ホットスポット、即ち“点”を測定することから広範囲の“面”での研究開発が必要不可欠となりました。1F事故後の放射線モニタリングとして、「有人ヘリコプター」、「無人ヘリコプター」、「車両」、「歩行」などを用いたサーベイが実施され、その結果は避難指示区域の設定や除染範囲の決定の基礎資料となる重要なデータとなっています。
1F事故時は、津波や電源喪失の影響で構内や周辺で放射線モニタリング機器が機能していなかったため、情報の共有に問題が生じました。そのため、原子力規制委員会は「原子力災害対策指針」を制定し、防災スキームを作成しました。そのスキームを実現するために、モニタリング測定から解析、意思決定に至るまでの一連の業務を円滑かつ迅速に行うことができるように、新たな「放射線測定システム」の開発を進めているところです。

開発中の放射線測定システム概要

無人飛行機による放射線測定

測定に関しては、緊急時モニタリングツールとして無人航空機システムによる放射線測定のフライト試験を実施しています。5.7GHz帯、LTE、衛星通信などを活用した長距離通信・長時間飛行の実現を目指しています。無人飛行機は雨天時のフライトも考慮した防水仕様となっており、輸送時は専用の輸送ケースを用いてミニバンに搭載し、簡単に現場へ機材を持ち出すことが可能です。合わせて機体に搭載する機材として、様々な情報を一度に取得できる複合型測定器や、プルーム測定検出器の開発を進めています。将来的にはこれらの技術により、作業員の被ばくを低減し、安全かつ迅速に広範囲の測定を行うことが可能になると考えています。

試験中の無人飛行機

上空からの放射線測定値の高精度化

上空からの測定結果に対して、統計的に得られたパラメータを用いて多くの測定経験値より換算する「機械学習」によって、従来よりも高精度な空間線量値を算出することが可能となりました。この方法により、地上1mで測定した空間線量率との整合性が高いマップを得ることができ、無人機による安全かつ高精度な放射線の測定結果を得ることができます。今後は各種換算結果の信頼性を数値的に評価し、マップ化する手法の開発も進めていきたいと思っています。

機械学習による高精度な放射線測定

この技術がどう活かされるのか

迅速かつ安全な測定解析手法の技術を後世に残す

再び原子力発電所事故が発生した場合、迅速かつ安全に放射線モニタリングができるように測定解析手法の技術を確立すること、個のシステムとして使用するのではなく、データの統合や連携が可能な「放射線測定システム」として後世に残したいと考えています。
また放射線測定値の解析技術は陸上だけでなく、海や大気という領域も含めて、放射線と密接な関係のある宇宙や医療など他分野への応用も可能となりますので、今後も技術開発と研究を推進していきたいと思っています。

研究者 佐々木 美雪(researchmap)
参考文献 雑誌名:Scientific Reports
論文題名: “New method for visualizing the dose rate distribution around the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant using artificial neural networks”
著者名:Miyuki Sasaki、Yukihisa Sanada、Estiner W. Katengeza、Akio Yamamoto