α/β検出器の開発
Interviewee
森下祐樹Yuki Morishita
博士(医療技術学)
研究の内容と目的
福島第一原子力発電所(以下1F)の廃炉現場には、プルトニウム(239Pu)やストロンチウム(90Sr)など、内部被ばくへの影響が大きいα線放出核種が随所に存在していますので、廃炉作業を進める上でα線を放出する粒子の位置や分布を特定することが非常に重要なテーマです。従来の方法では、可搬型のα線またはβ線検出器を使用してそれぞれ個別に測定する必要性がありましたので、測定する手間や時間がかかるばかりでなく、測定によって得られる情報が計数率(放射線の強さ)のみであり、放射性物質のエネルギー情報を測定できないという課題がありました。そこで、α線放出核種とβ線放出核種を同時に検知するための「α/β検出器」を開発し、従来の方法よりも円滑かつ効果的に測定することが可能となりました。
開発したα/β検出器(左) 及び核種可視化検出器の原理(右)
パルス波形弁別法(PSD)による改善
α/β検出器では、α線とβ線で光り方の特徴が異なるシンチレータを使って測定します。シンチレータの光を電子増倍管で電気信号に変換すると、特にα線とβ線の波形の立ち上がりや立ち下がりの部分に差異が現れます。その波形を解析する際、パルス波形弁別法(PSD)を用いることで、α線とβ線をそれぞれ識別しながら同時に測定することが可能になりました。開発した検出器は、β線の強度があまりに高すぎると、α線との弁別が困難となるケースもあるため、実際に1F原子炉建屋内の床面で採取した試料(スミヤ試料)を用いて測定を行い、α線放出核種とβ線放出核種を弁別できるかどうかを検証しながら精度の向上に努めています。
α線とβ線による出力電圧波形。α線とβ線では立ち上がりや立ち下がりの部分に差異があるため、
パルス波形弁別法(PSD)によりα線とβ線を弁別できる。
表面汚染検出器、ダストモニタとしての活用
α/β検出器は、表面汚染検出器とダストモニタとして2つの用途に応用することが可能です。表面汚染を検出する場合は、特にα線は空気中で飛ぶ距離が約4cmと短いため、なるべく汚染物に接近して測定することになります。また、ダストモニタでは、検出器とろ紙を対向した形で使用し、ろ紙上に空気中の放射性物質を連続的に捕集しながら測定しますので、空気中の放射性物質濃度を連続的に測定することが可能となります。
環境測定や医療分野など多分野に貢献
1Fの燃料デブリ取り出し作業現場におけるα核種及びβ核種の粒径分布を評価することで、内部被ばく線量評価の精度向上や作業環境の放射線管理、作業員の放射線防護に応用できると考えています。
将来的には、α線及びβ線の両方を放出するラドン(222Rn)とその子孫核種を測定するための環境モニタリング機器として、また、主にがん治療に活用される核医学治療(RI内容療法)における測定器として応用できると考えています。
関連情報
研究者 | 森下 祐樹(researchmap) |
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参考文献 | Scientific Reports Detection of alpha particle emitters originating from nuclear fuel inside reactor building of Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Yuki Morishita*1, Tatsuo Torii*1, Hiroshi Usami*1, Hiroyuki Kikuchi*2, Wataru Utsugi*2 and, Shiro Takahira*2 所属:*1 日本原子力研究開発機構, *2 東京電力ホールディングス株式会社 DOI番号:10.1038/s41598-018-36962-4 Morishita, Y., Di Fulvio, A., Clarke, S. D., Kearfott, K. J., & Pozzi, S. A. (2019). Organic scintillator-based alpha/beta detector for radiological decontamination. Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment, 935, 207-213. |
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