英知事業出身者の活躍

Vol. 2

伊藤 千尋Chihiro Ito

2021年3月掲載

Profile
所属 日本原子力研究開発機構 大熊分析・研究センター
分析部 分析課
経歴
2018年4月 - 現在 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 技術職
2018年3月 福島大学大学院 共生システム理工学研究科 修了
2016年3月 福島大学 共生システム理工学類 卒業
英知事業
採択課題
平成27年度 英知を結集した原子力科学技術・人材育成事業 廃止措置研究・人材育成等強化プログラム、
採択課題:「マルチフェーズ型研究教育による分析技術者人材育成と廃炉措置を支援加速する難分析核種の即応的計測法の実用化に関する研究開発」、研究代表者:高貝慶隆(福島大学)

現在の仕事内容について
~1F放射性廃棄物の分析方法の簡易・迅速化を目指す~

大熊分析・研究センターは、福島第一原子力発電所(以下1F)事故によって発生した放射性廃棄物や燃料デブリの性状等を把握するための分析や研究を行う施設です。私が所属する分析課は、放射性物質分析・研究施設第1棟(以下第1棟)の運用開始に向けた業務を行っています。
私は、分析方法の簡易・迅速化に係る分析技術の開発として、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)による核種分析法の開発、自動化技術の開発等を担当しています。また、第1棟での分析結果をより信頼性のあるものにするため、分析や校正方法のマニュアルの整備を進めています。第1棟には、放射性物質による作業員の被ばく低減のため、グローブボックスや鉄セルが設置されるので、それらを安全、確実に使用するために、模擬の設備を使用しての訓練も行っています。

実験風景
自動化装置の試験を行っています。
マニプレーターの操作訓練
第1棟で使用予定の機材やピンポン玉等を使用して操作訓練をしています。

学生時代の英知事業の活動について
~1Fの廃炉に関わる国内外の英知に触れる~

学生時代は、表面電離型質量分析計(以下TIMS)を用いるストロンチウム-90の分析手法の開発を行っていました。TIMSの分析経験者が身近におらず苦戦することも多かったのですが、英知事業を通し、研究機関や企業の方々から知識や技術を教えていただき、研究を進めることができました。
また、英知事業を通して、1Fの廃炉に関わる国内外の多くの機関の視察や分析に関する講習等に参加しました。1Fの視察では、事故原因や放射能の分析方法を学んだだけではなく、実際の現場の声を聞くことで、「今、何が難しくて、何が必要か」を知る機会となりました。国外では、スコットランド大学連合環境研究センターで原子炉を廃炉にした経験を聞いたり、コロラド州立大学でチェレンコフ光を原子炉の上から観察したりと、国内ではなかなかできない経験をしました。さらに、ピペット等の分析器具、分析装置の講習や、クリーンルーム、管理区域作業の講習にも参加する等、英知事業を通して、廃炉に係る分析の基礎から応用までの幅広い経験をし、多くのことを学ぶ機会を得ました。

同位体分析の研修
海洋研究開発機構にて、TIMSの実験や研究に関するディスカッションを行いました。
放射能分析・前処理の研修
(株)化研にて、ストロンチウム-90分析の研修に参加しました。

英知事業が現在の進路に与えた影響について
~廃炉における分析の重要性を実感~

研究室に配属されたときは、自分が1Fの廃炉に係る研究を行い、その分野に就職するとは全く考えてもいませんでした。英知事業を通して、日本国内外の多くの方々が様々な角度から廃炉を進めている姿を見て、廃炉における分析の重要性を実感し、私自身も貢献したいと強く考えるようになりました。

今後の抱負
~分析技術の開発を進め、1Fの廃炉に貢献したい~

廃炉を進めるために、分析は必要不可欠な技術です。しかし、分析対象は瓦礫や焼却灰、水処理二次廃棄物のように多種多様であること、分析目的の核種に合わせた分析技術が必要になること等、課題が山積しています。分析技術の開発を進め、より信頼できる分析結果を出していくことで、1Fの廃炉に貢献していきたいと考えています。

これから英知事業に携わる後輩へのメッセージ

~英知事業でたくさんの経験を~

1F事故から約10年の年月が経ち、全体的に事故当時の記憶が薄れ始めていると感じています。私自身、大学時代に廃炉を学ぶ機会がなければ、1F事故や廃炉についてほとんど意識せずに生活してきたと思います。しかしながら、長期にわたる1Fの廃炉をより安全に、そしてより迅速にやり遂げるため、現在も多くの人が英知事業に関わっています。英知事業を通してたくさんの経験を積み、興味を持った分野において、将来廃止措置に携わっていただければと思います。