英知事業出身者の活躍

Vol. 4

中森文博Fumihiro Nakamori

2021年4月掲載

Profile
所属 一般財団法人電力中央研究所 原子力技術研究所 燃料・炉心領域
経歴
2018年8月 - 現在 一般財団法人電力中央研究所 原子力技術研究所 燃料・炉心領域 主任研究員
2018年4月 - 2018年7月 一般財団法人電力中央研究所 原子力技術研究所 燃料・炉心領域 研究員
2017年4月 - 2018年3月 大阪大学 大学院工学研究科 特任研究員(常勤)
2017年3月 大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 博士後期課程 修了
2014年3月 福井大学 大学院工学研究科 原子力・エネルギー安全工学専攻 博士前期課程 修了
2012年3月 舞鶴工業高等専門学校 専攻科 電気・制御システム工学専攻 修了
英知事業
採択課題
平成27年度 英知を結集した原子力科学技術・人材育成事業 廃止措置研究・人材育成等強化プログラム、
採択課題:「福島第一原子力発電所の燃料デブリ分析・廃炉技術に関わる研究・人材育成」、研究代表者:安濃田良成(福井大学)、再委託先:大石佑治(大阪大学)

現在の仕事内容について
~燃料・材料の振る舞いを追究し続ける~

私は一般財団法人電力中央研究所 原子力技術研究所 燃料・炉心領域の主任研究員として、原子炉で使われている燃料や材料に関する研究に従事しています。燃料や材料の「通常運転時」や「過酷事故時」での挙動をより詳細に把握するために、燃料被覆管の原子レベルでの分析(3次元アトムプローブ)や、過酷事故時に燃料から放出されるセシウムと材料との反応性などを評価しています。原子炉内の環境は「通常運転時」と「過酷事故時」では全く異なりますが、燃料・材料という観点で一貫して研究することで、その挙動を大局的に把握できるように努めています。「過酷事故時」における燃料・材料の挙動の研究を行うことで、福島第一原子力発電所(1F)の廃止措置に貢献するとともに、その知見を「通常運転時」の安全性の向上に活かせる様に研究に取り組んでおります。

燃料・材料の分析
最新鋭の装置を用いて、燃料被覆管の微細構造を原子レベルで分析しています。
試験装置の組立・調整
自ら試験装置を設計し、組立・調整することで最適な試験条件を試行錯誤しています。

学生時代の英知事業の活動について
~研究支援による成果の創出、励みと仲間も獲得した~

大阪大学在学時代は、福島第一原子力発電所事故によって生成した「燃料デブリ」の物理的性質に関する研究を行いました。燃料デブリの取り出し方法を検討する上で、物理的性質は重要な指標の一つとされています。過酷事故時では、燃料や材料などが反応することで様々な物質が生成する可能性があります。それらの物質を調査し、「どれくらい硬いのか」また「どれくらい熱を伝えるのか」といったことを示すデータを実験的に取得しました。

英知事業に携わる以前から燃料デブリに関する研究を進めていましたが、英知事業の研究支援によって、より多くの試料の調製や実験データの取得が可能になりました。そのため、燃料被覆管とコンクリートの成分が反応することで生成すると考えられているZrSiO4(ジルコン、ケイ酸ジルコニウム)の確からしい物理的性質を取得でき、大阪大学と福井大学(共同研究先:採択課題の研究代表)で共同執筆した論文を発表しました。その成果も含めて、私自身博士号を頂くことができました。また、英知事業によって開催された「第2回次世代イニシアティブ廃炉技術カンファレンス(NDEC-2)」では研究奨励賞を頂きました。その後仕事として廃炉技術などに携わっていく上で、大変励みになりました。別分野で研究奨励賞を受賞した他大学の友人とは現在も交流をしており、それぞれ別の所属機関ではありますが、一緒に1Fの廃止措置に貢献していく仲間となっております。

国内外での研究発表
国内外問わず、多数の学会や会議などで研究発表をさせて頂きました。
NDEC-2 授賞式(2017年3月7日)
写真一番左が中森。オーラル発表で、研究奨励賞を頂きました。

英知事業が現在の進路に与えた影響について
~国内外の英知に触れ、いずれは英知を生み出す研究者に~

私は福島第一原子力発電所事故を機に、1Fの廃止措置などで原子力業界に貢献したいと思い、原子力工学を学び始めました。職種を問わず廃止措置に「貢献したい」という思いが始まりでしたが、英知事業での多くの研究者との交流を通して、その方々の熱や姿勢に憧れを抱き、私もその一員になりたいと強く思いました。現在、当時の英知事業で交流した方々も含め、研究や様々な仕事を一緒にしております。1Fの廃止措置などに貢献し続けることで、いずれは自分自身も英知とされる新知見を生み出し、誰かの目標となれるように頑張ります。

今後の抱負
~真摯に原子力発電・関連技術の安全性向上に貢献する~

1Fの廃止措置や原子力発電所の通常運転などに関する技術では、継続した安全性の向上が求められています。安全性の向上に貢献するためには、新たなアプローチを検討するとともに、研究データの一点一点を着実に取得・考察し続けることが重要と考えています。今もご尽力してくださっている方々や次世代のためにも、真摯に研究を努め続けたいと思っております。

これから英知事業に携わる後輩へのメッセージ

~英知と共に、一緒に挑戦しませんか?~

1Fの廃止措置を安全かつ迅速に完遂するためには、様々な課題に挑戦する必要があります。英知事業では、その課題に挑戦する国内外の様々な分野の研究者や技術者と交流する機会もいただきました。その方々と一緒に課題を解決し、1Fの廃止措置の達成することで、また別の日本や世界の課題の解決にも貢献できるように一緒に頑張りませんか?