英知事業出身者の活躍
Vol. 5
吉川絵麻Ema Yoshikawa
2021年7月掲載
Profile | |||||||||||||
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所属 | 一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境部門 | ||||||||||||
経歴 |
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英知事業 採択課題 |
平成27年度 英知を結集した原子力科学技術・人材育成事業 廃止措置研究・人材育成等強化プログラム、 採択課題:「福島第一原子力発電所構内環境評価・デブリ取出しから廃炉までを想定した地盤工学的新技術開発と人材育成プログラム」、研究代表者:東畑郁生(地盤工学会)、再委託先:小峯秀雄(早稲田大学)、鈴木誠(千葉工業大学) |
現在の仕事内容について
~膨潤性粘土のバリア性能を評価する~
私は、一般財団法人電力中央研究所 サステナブルシステム研究本部 地質・地下環境部門の研究員として、膨潤性粘土(ベントナイト)に関する研究に従事しています。ベントナイトは、吸水により膨潤する粘土であり、圧縮成型すると非常に水を通し難くなることから、放射性廃棄物処分において、放射性核種の移行を抑制するためのバリア材料として検討される材料です。千年程度からそれ以上の長期にわたる処分施設の安全性を評価するためには、その期間に発生する廃棄体からの発熱や、外力による変形・応力、地下水の浸潤、さらに地下水との化学的な相互作用といった様々な影響を考慮して、ベントナイトの挙動を明らかにしていくことが求められます。このような処分施設の環境に応じた想定に基づき、実験を実施することで、現象理解を通じてベントナイトのバリア性能を評価しています。放射性核種を含む廃棄物の処分は、福島第一原子力発電所の廃止措置だけでなく、一般廃炉や原子力発電所の稼働においても重要な課題です。その処分技術の確立は、安定的な電力供給を維持する上で必要不可欠です。より安全な処分を実現するために、放射性廃棄物処分事業の推進に向けて、日々研究に取り組んでおります。
様々な土質試験機を用いて、ベントナイトの力学特性や透水性を評価しています。
供試体を成型し、土質試験に用います。写真では、原位置試料を切り出して成型しています。
学生時代の英知事業の活動について
~地盤工学の観点から1Fの廃止措置を検討する~
早稲田大学在学時は、福島第一原子力発電所の廃止措置を支援するための補助材料として、泥水系材料の性能に関する研究を行ってきました。ベントナイト懸濁液に荷重材となる鉱物を分散させた泥水は、従来、地盤掘削等の土木施工において用いられてきた技術です。この技術を1Fの廃止措置に役立てるという観点で、例えば、粒子の目詰まりにより亀裂を閉塞し、漏洩を防ぐ能力について実験的に検討を行ってきました。また、この材料にガンマ線や中性子線を照射し、その遮蔽性能を定量的に調べる実験も実施してきました。英知事業による研究支援によって、多くの共同研究者に支えられて、研究・実験を実施することができました。また、英知事業の一環である「次世代イニシアティブ廃炉技術カンファレンス(NDEC)」では、研究発表を通じて、専門分野の枠を超えた交流を行いました。様々な分野の専門家と議論し、ご意見を頂くことで、自身の視野を広げることができました。
研究実施にあたり、多くの共同研究者の方々にご支援いただきました。
ベントナイトの掘削現場の見学の様子です。背後一面がベントナイト鉱床です。
英知事業が現在の進路に与えた影響について
~現象を体系化して課題解決に貢献する研究者~
大学在学時の研究は、英知事業の一環として、地盤工学と原子力工学の架け橋とするために創設された学術体系「廃炉地盤工学」の一端を担うものでした。この廃炉地盤工学に関する研究活動に携わる中で、地盤工学の技術を1Fの廃止措置に適用すること、すなわち分野間の連携において、技術や現象が普遍的な理論として体系化されていることは重要であると認識しました。研究者は、現象を正しく解釈し、それらを体系化することで、現場で使用される技術として役立てることのできる存在であると考えています。この英知事業を通じて、研究者として、現象をより普遍的な理論として体系化することで、1Fの廃止措置のような分野の枠を超えた課題解決に貢献したいと思うようになりました。
今後の抱負
~放射性廃棄物処分事業の支援により、持続可能な社会を支える~
放射性廃棄物処分は、1Fの廃止措置に限らず、一般廃炉や原子力発電所の稼働においても必要不可欠な事業です。その安全性の根拠となるデータを取得することは、安定的な電力供給を維持し、持続可能な社会を形成する上で重要なことであると考えます。放射性廃棄物処分事業に携わる研究者として、その安全性を確立するための研究成果を創出するとともに、技術に関わる不確実性を明らかにしていくことを心がけ、研究に真摯に向き合っていきたいと思います。
~分野を超えた英知の結集~
1Fの廃止措置のような困難な状況を打開するためには、分野を横断して物事を判断できる人材が必要となります。そのためには、自身の専門性に捉われず、様々な分野の研究者・技術者たちと交流することで、知識や考え方の幅を広げていくことが重要と考えます。英知事業では、皆さんに、分野の枠を超えた交流の場が提供されるでしょう。そのような場や経験を通じて、各々が有する英知を結集することで、1Fの廃止措置が実現していくのだと思います。