英知事業出身者の活躍

Vol. 6

井上 大志Taishi Inoue

2021年9月掲載

Profile
所属 原子力規制委員会 原子力規制庁 原子力規制部 審査グループ 実用炉審査部門
経歴
2021年5月 - 現在 原子力規制庁 原子力規制部審査グループ 実用炉審査部門
2020年4月 - 2021年4月 原子力規制庁 長官官房総務課
2020年3月 福井大学 工学研究科 原子力・エネルギー安全工学専攻 博士前期過程 修了
2018年9月 福井大学 工学部 物理工学科 卒業
英知事業
採択課題
平成27年度 英知を結集した原子力科学技術・人材育成事業 廃止措置研究・人材育成等強化プログラム
採択課題:「福島第一原子力発電所の燃料デブリ分析・廃炉技術に関わる研究・人材育成」、研究代表者:安濃田良成(福井大学)

現在の仕事内容について
~原子力の確かな規制を目指して~

私は、原子力規制委員会原子力規制庁の実用炉審査部門という部署で、発電用原子炉の新規制基準適合性審査業務に携わっています。原子力規制委員会は、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故の後、事故の反省をふまえて、原子力施設が満たすべき新たな規制基準を設けました。原子力規制部では、事業者からの申請を受け、日本国内の原子力施設がこの規制基準に適合しているか否かを審査しています。
安全の追求に対する強い意志を持つ。安全神話・無謬性神話を克服する。現状維持バイアスと戦う。簡単な仕事ではありませんが、「確かな規制を通じて、人と環境を守る」という組織理念のもと、毎日やりがいを感じながら職務に励んでおります。

原子力規制庁 庁舎内にて
福島第一原子力発電所事故の教訓を胸に、日々の業務に従事しています
庁舎内の会議室にて
事業者の申請内容の規制基準適合性について、科学的・技術的観点から議論します

学生時代の英知事業の活動について
~仲間との出会いと進路選択の原点~

修士1年生のとき、英知事業の一環である平成30年度第2回福島リサーチカンファレンス(FRC)「1F事故の知見に基づく炉心溶融挙動の解明と燃料破損現象に関する国際セミナー」に参加しました。内容としては、MELCOR開発プロジェクトリーダーのサンディア国立研究所Randall Gauntt博士をはじめとする海外の研究者の方々や、1Fの廃止措置に係る研究を行っているJAEAの研究者の方々の講演、J-Villageでのグループワーク、1Fの見学会などがありました。
これらの体験はどれも非常に興味深く、今振り返れば私の進路選択に大きな影響を与えるものでした。特に1Fの見学は、とても衝撃的でした。水素爆発によって鉄骨がむき出しになった原子炉建屋は、テレビでは見たことがあるものの実際間近でみることで、事故の凄惨さを感じました。また、地下水の流入を防ぐ凍土壁に関する設備や、敷地内にところ狭しと並ぶ汚染水・処理水タンクを見るうちに、「事故はまだ終わっていない」と実感するとともに、「このような原子力災害を2度と起こしたくない」という強い想いを抱くようになりました。
プログラムの中には、国内外の原子炉の事故進展解析を専門とする研究者や、原子力を専攻する学生とともにディスカッションをする機会がありました。ディスカッションのテーマはいずれも今後の原子力業界の展望を議論するもので、非常に有意義でした(すべて英語での講義・議論だったので苦労しましたが・・・)。
また、この時一緒に語り合った学生の中には、同じ職場で働く同僚や、電力会社や研究者として原子力業界で奮闘している仲間が多く参加しており、多くの知遇を得られたことも強く印象に残っています。

セミナーで出会った仲間と共に
福島第一原子力発電所事故の諸課題について英語で議論しました。

今後の抱負
~1F事故を忘れない~

「安全の追求に終わりはない」という命題に対して、日々奮闘しています。安全の追求には、常に自分の仕事に対する姿勢を省み、新知見を求めて研鑽していくことが求められます。終わりがなく、簡単な仕事ではありません。大きなプレッシャーにつぶれそうになることもあります。現在の組織に入庁してまだ2年。学ぶことや吸収することがまだまだたくさんありますが、福島第一原子力発電所を初めて見学したあの日の記憶を大切に、これからも業務に邁進していく所存です。

これから英知事業に携わる後輩へのメッセージ

~英知事業を活用し、諸課題の解決へ共に挑戦しましょう~

英知事業、とりわけ人材育成事業の体験を記載いたしましたが、先述したとおり、本当に有意義なプログラムでした。研究室でじっくり実験をすることももちろん大切ですが、国内外の研究者や、同年代の学生を触れ合うことは、自分の将来設計に大いに役立つと思います。また、我が国の原子力政策の大きな転換点となった福島第一原子力発電所(事故)、その近傍にある実験施設も、この事業で関わることができればぜひ参加してみてください。より高い視座を得られるはずです。
事業の名のとおり、我々若い世代の英知を結集し、原子力の諸課題に一緒に立ち向かいましょう。