汚染水の処理によって発生した二次廃棄物を安全に保管する技術検討
Interviewee
山岸功Isao Yamagishi
工学博士
研究の内容と目的
放射性物質濃度の高い汚染水は、「セシウム吸着塔」や「多核種除去設備(以下ALPS:Advanced Liquid Processing System)」で処理し、トリチウム以外の大部分の放射性核種を取り除いていますが、その過程で発生する使用済みの吸着材や除去された放射性物質が二次廃棄物として発生します。廃炉を進める上で、放射性廃棄物の管理(保管・処理・処分)技術を確立していくことが重要なテーマとなりますので、本研究では二次廃棄物の保管に着目して研究を進めています。
セシウム吸着塔の長期保管方策の検討
原子炉建屋やタービン建屋から発生した放射性物質を含む汚染水は、まずセシウム吸着装置を使用して、汚染水に含まれる放射性物質の大部分を占めるセシウムを除去します。吸着剤にはゼオライトを利用していますが、ゼオライトは一定量のセシウムを吸着するとそれ以上は吸着しなくなりますので、放射性物質を吸着したセシウム吸着塔は定期的に交換・保管します。
汚染水の浄化処理
初期の吸着塔は海水を含む汚染水を処理していますので、ステンレス鋼製容器で出来ている吸着塔の腐食評価や吸着材の性状の推定、水素発生と容器腐食の評価を早急に行う必要性があります。そこで、CLADSでは長期保管に向けて廃棄物の性状変化を推定するための実規模試験(非放射性)と解析を行っています。
模擬のゼオライト吸着材とセシウム吸着塔試験体を使用し、セシウム放射線による発熱を模擬するヒーターを入れて長期保管に関する試験を実施しました。そもそも保管の一番の問題は水素の発生や腐食で、どちらも水があることが原因です。そのため、吸着塔内に残った水や湿った吸着材が乾燥すれば、保管のリスクは大きく減少します。しかし、普通に乾燥を待つと数十年かかる可能性があり、乾燥の過程で水の塩分濃度が高まること(腐食リスクの増大)も懸念されます。また、サンプリングすら厳しい状態で容器の蓋を開けて確認する事もできませんので、容器内の状態を推定するための小規模試験や実規模試験(非放射性)を行うことも重要な役割となります。湿った吸着材の乾燥過程を解析し、予測するプログラムの開発も行っています。
多核種除去設備のHIC
セシウム吸着装置でセシウムを除去した汚染水はALPSで62種類の放射性物質を除去します。除去された放射性物質は「高性能容器(以下HIC:High Integrity Container)」に保管され、一時保管施設へ輸送後に貯蔵されます。
汚染水の浄化処理
このHICの中には、スラリーというドロドロとした液体を入れたものが多数ありますが、保管中のHICから水があふれるというトラブルが起きました。スラリーに含まれるストロンチウムが出す放射線で水が分解して水素の気泡が発生したためです。この現象については模擬実験を行い、放射線照射によるスラリーの膨張と液面の上昇を確認することができました。どのような条件で水があふれるのか、どのように水素の気泡が放出されるのか、などの詳細なメカニズムについて、現在も解明を進めているところです。
ゼオライトを固めて安定化するジオポリマー
また、これは保管というより処理になるのですが、根本となる水ごと固めて安定化する技術についても検討しています。フランスで開発・研究をされている「ジオポリマー(セメントに似た新材料)」でゼオライトを水ごと固める技術に着目しています。ジオポリマーは耐熱性やセシウム保持能力に優れていますので、長期保管の課題でもある水素対策としてその可能性を探っているところです。
より合理的な保管を目指す
現在の廃炉において、スペースの多くは汚染水処理タンク等の廃棄物が占めています。汚染水の処理によって発生する二次廃棄物は今後も増え続け、これからより発生量の低減や減量化が求められてきます。しかしコンパクトにするという事は、その分密度も高くなり、様々なリスクも発生します。また、現在の保管方法は事故対応や廃炉の状況に応じて進めてきた手法ですので、今一度見直していく必要性があります。より安全に、より合理的な保管方法を目指して今後の研究・検討を進めていきます。
関連情報
参考文献 | 1…山岸功、他、「福島第一原子力発電所高汚染水の処理 処分の課題-処分を見据えた対応策の提言」、日本原子力学会誌、54(3), pp.166-170
(2012). 2…I.Yamagishi, et al., “ Characterization and storage of radioactive zeolite waste”, J. Nucl. Sci. Technol., 51(7-8), pp.1044-1053 (2014). 3…I.Yamagishi, et al. “Study on wet waste storage—irradiation behavior of carbonate slurry and Wet Zeolite”, Conference paper, 3rd International Forum on th0.e Decommissioning of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station. Iwaki, Japan (2018. Available from https ://ndf-forum.com/3rd/en/ 4…V.Cantarel, et al., “On the hydrogen production of geopolymer wasteforms under irradiation”, J.Am.Ceram.Soc, 102, pp.7553-7563 (2019). |
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