遠隔放射線イメージングシステム
Interviewee
佐藤優樹Yuki Sato
博士(工学)
研究の内容と目的
福島第一原子力発電所(以下1F)建屋内の廃炉作業現場において、作業員の被ばく線量を低減させる事は重要な課題の一つです。そのためにも、1F建屋内のホットスポット(周辺と比較して局所的に線量率が高い箇所)を含む放射性物質の分布を正確に把握し、安全性を確保していくことが重要です。遠隔操作でホットスポットを測定し、可視化することによって、廃炉作業を安全かつ円滑に進められるようにしていくことが遠隔放射線イメージングシステム開発の目的です。
(浜松ホトニクス㈱と早稲田大学が共同開発したコンプトンカメラを基盤として装置を開発)
小型カメラによる計測
放射性物質を可視化する小型軽量コンプトンカメラを開発。これにより、従来よりも「早く」「広い範囲」でホットスポットを把握できるようになりました。現在、1Fでの実証試験を進めており、これまでに幾つかのホットスポットの検知に成功しています(※1)。
さらに小型軽量化により、クローラーロボットに搭載して作業現場を計測したり、ドローンに取り付けて屋外の広範囲を計測したりすることが可能です。また、現場の線量率に合わせてコンプトンカメラの種類や設定を変えながら測定できるように対応しています。
計測したものを3次元で確認
計測した結果をより分かりやすく表現するための技術が「3次元化」です。コンプトンカメラによって取得したホットスポットのイメージを現場の3次元モデルと重ねる事によって、ホットスポットの位置や拡がりを3次元的に表現することが可能です。3次元モデルは、土木測量や映画の世界などで既に使用されている「フォトグラメトリー」という技術で構築します。デジタルカメラで撮影した写真データから3次元データを作るという写真測量技術です。
また、フォトグラメトリーだけでなく「3次元レーザースキャナ」を利⽤した、より高精度の3次元モデルとの組み合わせでホットスポットを可視化する技術も開発しました。レーザー光を利用した測域センサ(LiDAR)機器とコンプトンカメラを組み合わせたシステムで、測域センサにより取得した周囲の3次元モデルデータと、コンプトンカメラで取得したホットスポットのイメージを重ねることにより、「3次元放射線イメージング」を実現することができました。暗所での計測も可能で、フォトグラメトリーよりも高精度の3次元モデルを作成できるというメリットがありますが、装置が高価であることに加えて、対象の色情報が得られないというデメリットもあります。それぞれのメリット・デメリットを相互補完し、状況に応じて使い分ける必要があります。
(米国KAARTA社 Stencil2)
1Fの廃炉を円滑に進めるために放射性物質の分布を“見える化”します
これらの装置を1Fで働く作業員の方にご利用いただいて、ホットスポットの検知や除染計画の立案に役立てていただきたいと考えています。
なお現在のシステムには、放射線量が高い環境においてコンプトンカメラの信号処理能力が追いつかなくなるといった課題が残されています。これらの課題を一つずつ解決し、より現場で利用し易い装置を目指します。
ひいては、この研究開発を通して廃炉作業に関わる作業員の皆さんに安心と安全を提供したいと考えています。
関連情報
研究者 | 佐藤優樹(researchmap) |
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参考文献 | ※1…Y. Sato, Y. Tanifuji, Y. Terasaka et. al., Radiation imaging using a compact Compton
camera inside the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station building, Journal of Nuclear
Science and Technology, 55, pp. 965-970, (2018). ※2…Y. Sato, Y. Terasaka, W. Utsugi et. al. ,Radiation imaging using a compact Compton camera mounted on a crawler robot inside reactor buildings of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, Journal of Nuclear Science and Technology, 56, pp. 801-808, (2019). ※3…(国研)日本原子力研究開発機構、㈱千代田テクノル、プレスリリース、空からすばやく 環境中の放射性物質分布を3次元で可視化 ―放射性物質可視化カメラを搭載したドローンシステムを開発― 2019年5月9日 |
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