レーザー/光ファイバーを用いた炉内検知・分析技術
Interviewee
若井田育夫Ikuo Wakaida
理学博士
研究の内容と目的
現在、福島第一原子力発電所(以下1F)における炉内状況は、遠隔操作ロボット等により計測・分析が進められていますが、燃料デブリの性状を正確に捉えた結果は得られていませんので、事故進展解析や知見により推定しているのが実態です。実際の分析方法では、1F建屋内でサンプリングされた試料を採取して研究施設へ輸送し、様々な手法で核種分析が行われています。しかし、建屋内の現場で迅速に測定・分析することができれば、予測ではない現実の状況に基づいた判断により、計画や手法の策定、作業段取りの決定、作業状況の把握、作業後の状況確認(残存物の確認)を現場で迅速に行うことが可能となります。もちろん専用施設での分析結果の方が精度は高いですが、「耐放射線性光ファイバー利用レーザー誘起プラズマ発光分析法(以下、光ファイバーLIBS分析法)」を利用することで、"その場"で"迅速に"測定・分析することが現実的に可能となります。
光ファイバーLIBS分析法を中心とした開発
「光ファイバーLIBS分析法」は、耐放射線性光ファイバーによりレーザー光を遠隔搬送し、レーザー誘起プラズマ発光分析法によりデブリを分析する技術です。従来型の技術では、分析対象物質によって更なる高エネルギーが必要となるケースや光ファイバーを長尺化する事によってレーザーの出力が低下する等の課題が発生しました。そこで、京都大学の深海天然資源探査基盤研究で使用されている「ロングパルスレーザー技術」を利用することにより、レーザー光が光ファイバーに与えるダメージを大幅に削減するとともに、これまでの10倍以上の高いエネルギーを伝送することが可能になりました。また、アイラボ株式会社の有する「マイクロ波プラズマ生成技術による原子発光強度の増大技術」(自動車産業における高効率燃焼実用化技術)を利用することで、固体焼結体のみならずガラス化したデブリやコリウム等にも対応可能となり、従来以上に高感度かつ物質分析性能を向上させることができました。
光ファイバーLIBS分析法の概念
臨機応変に対応できる様々な手法の組み合わせ
しかし、光ファイバーLIBS分析法にも限界があります。1F内の状況が明らかになっていないため、使用できる環境や条件が特定できないという課題があります。そこで、どのような利用状況でもそれぞれの特長を生かした選択・組み合わせで使用できるように、光ファイバーLIBSを活用した手法の多様化を進めました。
マイクロチップレーザーを活用した技術では、従来までは低放射線率環境である炉外に配置していたパルスレーザーの発信機を、光ファイバー先端に装着して直接炉内に導入します。これにより、光ファイバーを長尺化する事で起こるレーザー出力の低下を根本から解決し、分光器等の機器をより安全な炉外まで配置できるようになりました。より長尺に、より柔軟に、より小型化することで更に高い集光性を実現しました。
代替え手法を多く準備できるよう柔軟な技術開発を進める
マイクロチップレーザーには、耐放射線性という点で弱点がありますので、想定外の環境下では活用できない可能性も発生します。そこで、マイクロチップレーザーだけでなく、用途や状況に合わせて、より多くの代替え手法を備えていくことが重要なテーマとなります。基礎基盤技術を多様化することによって選択肢が広がります。「遠隔・光ファイバーLIBS分析法」と「光ファイバーを介さない直接LIBS分析法」を状況に応じて使い分けながら、デブリ分析に挑んでいきます。