放射性粒子に関する研究

Interviewee

佐藤志彦Yukihiko Satou

博士(理学)

研究の内容と目的

福島第一原子力発電所(以下1F)から放出した放射性粒⼦(放射性セシウムを含む粒⼦)を様々な方法で分析をすることにより、事故当時の原子炉の中で起きていたことを明らかにするとともに、廃炉作業で放射性粒子が環境中に放出するといった新たなリスクを軽減するための基礎情報を得ることが⽬的です。富岡の国際共同研究棟では1Fの周辺で採取した環境試料に限定して研究を進めており、その粒⼦がどのように発生したのか、どれくらい放出されたのか、炉内のどこにたくさん残っているのかを解明しています。

はじめに採取してきた環境試料に放射性粒⼦が含まれているか「オートラジオグラフィー」で確かめます。試料にイメージングプレート(放射線に当たった影響を記録する薄いシート)を密着させ、5分ほどしたところで読取り装置で画像化し試料のどこにどれくらい粒⼦があるのかを特定します。少しずつ放射能を帯びていない土や落ち葉などを取り除き、その作業を数回繰り返して取り出した粒⼦を、今度は「走査型電子顕微鏡」を使⽤して形や穴の状態を確認し、合わせて含まれる元素も確かめます。そのとき、ウランや半減期が数万年の放射性物質の存在が疑われる場合は、「二次イオン質量分析装置」を使用した同位体比分析により、1F由来かあるいは自然界に元々存在していたものかを確認します。

オートラジオグラフィシステム
走査型電子顕微鏡
二次イオン質量分析装置
1F1号機から3月12日に放出した放射性粒子の例

分析した粒子について

これまでに3月15日(TypeA)、3月12日(TypeB)に2種類の放射性粒子が1F事故で放出したことが判明しました。それぞれの粒子は、発⽣元となった原子炉によって性質が異なり、TypeAは⽐較的軽量で丸いのに対し、TypeBはAに⽐べ重くゴツゴツといびつな形状や、ガラス繊維のようなものを付けた物が見つかっています。
それぞれ違うタイプの粒子が存在する要因は、事故の時間経過と発生した状況、その事象の違いによるものと考えられています。

この技術がどう活かされるのか

デブリ取り出しに向けたリスクモニタリング

⾬⾵等の自然環境の影響を受ける場所に存在している放射性粒⼦については、時間経過とともに徐々に減るものと考えられますが、1F建屋内にはまだまだ存在しているものと予想されます。
今後は1Fの燃料デブリを安全に取り出すことがミッションとなりますので、微粒子状の放射性物質を飛散させることなく、安全に取り出しする方法を決定することが重要なテーマです。そのために解析作業で得られた情報を蓄積し、1F建屋内にある放射性粒⼦の特徴や分布状況を把握し、安全性に影響を及ぼす可能性のあるリスクを特定、評価、監視、軽減していくことが重要な役割となります。

研究者 佐藤志彦(researchmap)
参考文献 1…Yukihiko Satou, Keisuke Sueki, Kimikazu Sasa, Hideki Yoshikawa, Shigeo Nakama, Haruka Minowa, Yoshinari Abe, Izumi Nakai, Takahiro Ono, Kouji Adachi and Yasuhito Igarashi, Analysis of two forms of radioactive particles emitted during the early stages of the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station accident, Geochemical Journal, 52, pp137-143, 2018.
2…Yukihiko Satou, Keisuke Sueki, Kimikazu Sasa, Kouji Adachi, Yasuhito Igarashi, First successful isolation of radioactive particles from soil near the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant, Anthropocene, 14, pp71-76, 2016.