
センター長挨拶
福島の復興とCLADS
研究開発を通して、1F廃炉と環境回復を進め、福島復興に貢献する。これが、CLADSの第一の使命である。1F廃炉と福島の環境回復の目指すところは、1F事故により放出された放射性核種に起因するリスク源を取り除き、この地における活動や生活のリスクを十分低くすることと言える。
しかし、このリスク源を除去しようとすると、さまざまな障害が立ちふさがる。1F廃炉の場合、リスク源となるのは、燃料デブリや、建屋構造物に付着した放射性物質、廃炉の過程で発生するさまざまな放射性廃棄物等である。それらを取り除き、管理しようとすると、まず現場の高い放射線量率が、作業の実施や計画立案に必要な情報の取得を困難にする。また、除去したリスク源を安全に管理し、処分しなければならないが、これまでの放射性廃棄物と同様の方法で十分な安全性が確保できるか、評価が必要である。環境回復では、立ち入りが困難な山地森林や複雑な市街地の構成が、放射性物質の分布状況などの情報の取得を難しくしている。事前の情報の取得が困難ということは、計画に大きな不確実性が存在するということであり、それに柔軟に対処するためには、技術の幅を増やし、多くのオプションを備えておくことが求められる。
CLADSには、これらの障害を乗り越え、打破するための手段がある。様々な研究のバックグラウンドを持つ研究者・技術者、JAEA内他拠点の施設・設備の活用や他プロジェクトとの協働、長年にわたるJAEAとしての放射性物質取扱いの知見・技術・経験、国内外研究機関との有機的な協力ネットワーク、地元との連携協力である。CLADSでは、自分の研究分野の枠にとどまらず、国内外の人・物・知見を有機的に結び付けることで、新たな知見や技術を生み出し、難敵に立ち向かうための様々な技術オプションを作り上げていくことを目指す。
1F廃炉と環境回復という負からの回復活動では、売れる新技術を開発し、あるいは、廃棄物だったものを有価物として活用することで初めて、その活動から利益を生み出し、持続可能(サステナブル)な発展を達成できる。CLADSは、福島の復興はもちろん、この地のサステナブルな発展に貢献するべく、研究開発を進めていく。

センター長飯島 和毅Kazuki IIJIMA
原子力に興味を持って原子核工学を学ぶために大学に進学し、研究室に配属されてからは東海村にある施設での実験に参加するために、先生や仲間の車で、年に数回、仙台と東海村の間を往復していました。指導教官の先生の仕事が終わる夕方5時とか六時ぐらいから東海村に向けて出発するのですが、当時は常磐高速道路がいわき中央ICまでしか開通しておらず、国道六号線を使って福島県浜通りを南に下り、午後八時とか九時ぐらいの真っ暗な道路をヘッドライトが通り過ぎていく中で、福島第一原発の入り口前、第二原発の入り口前と、通過していくのです。そんな時、「ここに原発があるんだな」と、車内で話し合っていたことを今でも鮮明に覚えています。また、車を運転することが嬉しくて仕方ない年頃でしたので、友人達と松川浦周辺にもドライブに行ったものでした。
東京電力福島第一原子力発電所事故は私の学生時代の懐かしい思い出の一部であるこの地域に甚大な影響を及ぼし、多くの方の人生を変えてしまったのだと言う重い事実を富岡町に住み始めて改めて実感をしています。原子力を学び推進してきた一人の人間として、技術者は謙虚でなければならないと思いを新たにしています。
我が国唯一の原子力の総合研究機関であるJAEAには、この地域の住民の皆さんが安心してこの地に帰還してかつての生活を取り戻して住み続けられるためのあらゆる努力を積み重ねていく責務があり、国際廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)はその設立の目的である福島第一原発の廃炉を着実に進めるための研究を推進してきました。その着実な取り組みのために、自らの理念を持つ研究者を育て、自由闊達な研究活動が実践され、その成果は組織的かつ効果的に発信することがこれまで以上に求められています。CLADSはそのための組織として有効に機能していくことが必要です。
私の役割は、飯島センター長を支えてCLADSにおいて全ての研究者と技術者がその力を存分に発揮して理性と情熱を持って研究を進める環境を整えていくことであり、そのために、謙虚にあらゆる努力を積み重ねていきたいと考えています。関係する皆様の御理解とご協力を賜りますよう、何卒よろしく御願い申し上げます。

センター長代理須山 賢也Kenya SUYAMA