センター長挨拶

私たちの使命

東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所事故は、社会に大きなインパクトを与えるとともに、福島県民をはじめとする日本国民に多大な影響を与えている。既に10年が経過しているものの、未だに帰還困難区域が存在し、廃炉作業も少しずつ前進しているが、まだまだ先は長い。日本原子力研究開発機構(JAEA)は、放射性物質や原子力エネルギーを活用し、様々な工業利用、科学技術の発展に寄与してきた日本唯一の研究機関である。福島の復興に向けて、研究機関として積極的に寄与してきている。

帰還困難区域における環境回復や、福島第一原子力発電所の廃炉は、必ず遂行するべき課題であるが、困難な課題が山積している。例えば、廃炉においては、極めて高い放射線環境下にある原子炉周辺に存在する、燃料デブリを安全に取出し、処理した後、安全に処分を行う事が必要である。これは、人類が今まで経験したことのない、きわめてチャレンジングな研究開発である。実験室規模であれば、このように厳しい環境においても、安全に燃料デブリの処理処分を行う事が出来る技術をJAEAは持っている。しかし、すべてを遠隔技術で行う事や、原子炉3基分という大量の燃料デブリ処理などを考えると、実験室規模の技術をそのまま適用する事は出来ない。このために、着実な技術開発を進めていくことが重要となる。

CLADS(廃炉環境国際共同研究センター)は、名前に「国際共同」が入っているように、福島復興に関する国内や世界との連携を行うハブ(HUB)である。世界を見渡すと、JAEAと同様に、ウランなどの核燃料物質や、様々な放射性物質に関する経験を持つ研究所がある。アメリカ、イギリス、フランス、ロシアなど、放射性物質に関する長年の経験を有している。JAEAと世界の研究所が協力する事で、福島の復興を遂行していく事が期待されている。

CLADSでは、福島復興のために、どのような課題があり、どのような研究開発をしていく必要があるのかを、明らかにするために、「基礎・基盤研究の全体マップ」を継続的に作り続けている。CLADSが対象とする分野は、幅広い研究分野であり、原子力分野のみならず、幅広い分野との国際共同研究を含めて、研究を進めていくことが必要である。

福島の復興、そして日本の発展のために、CLADSは研究開発を進めていく。それは、今まで人類が経験した事の無い、極めて困難でチャレンジングな研究対象も含まれている。世界と共同しながら、一日も早い、福島の復興に向けて、研究開発を進めていきたい。

センター長岡本 孝司Prof. Koji Okamoto